精子の形成について

精子は精巣の内部の、精細管という組織の中で、形成されます。精巣組織の内部に、細かいチューブ状の組織が精細管であり、目視の肉眼的でも目の良いひとであれば精細管のチューブ構造は大まかに見えます。精細管の内部には精上皮細胞とセルトリ細胞があります。セルトリ細胞によって、精子のもとになる造精細胞が支えられ栄養の供給を受けているのです。

ここではその精子の形成の過程について少しお話したいと思います。
まず、最初の精祖細胞が大元の細胞です。これが第一次減数分裂を起こして、次の精母細胞になります。その後第二精母細胞となって数時間後に、第二減数分裂を行って、精子細胞となります。つまり、各々の精母細胞が2回の減数(成熟)分裂によって、4個の精子細胞となる訳です。この精子細胞は、各々、精母細胞の半分の染色体をもっています。この精子細胞は、円形精子細胞と言いますが、さらに精子へ変化し成長していくのですが、古典的には、この過程を、精子完成(spermiogenesis)と言います。

精子完成においては、精子の頭部、つまり尖体(先体ともいいます)の形成、そして核が濃縮され、尾部(泳ぐために必要なしっぽのこと)が形成され、成熟した精子となって、精細管内部に放出され旅立つことになります。

この一連の精子の成長していく過程は約74日程度かかると言われています。別の測定法では3ヶ月強ともいわれ、結局、精子の大元の細胞から成熟精子への流れには、3ヶ月程度は必要と言ってよいと思います。

比較的長い時間がかかる精子の形成です。だから、治療効果や、生活習慣の改善など環境変化の影響も、結果が反映されて精子の所見の変化として確認できるようになるまでに、74日から3ヶ月程度要するということが理解できると思います。

精液検査の場合、直前の飲酒や寝不足の結果がいきなり精子所見に出てくるのではなく、長期的な生活や健康状態の結果が、精子の所見となって表れると考えてください。 たくさんのステップがある精子の形成については、その各種のステージで様々な障害が起こることから、乏精子症、無力精子症、または無精子症や精子の成熟停止が起こると考えられています。

精子の質とは

精子の質のイメージ

当院ではいかにして精子の質を良いものにするか?について重視しています。精子の質というのは、精子の内部にある遺伝子情報であるDNAの損傷をどのようにすれば少なくなるのであろうか?という問題です。日本は世界的にも体外受精がトップクラスに多く施行されている国です。膨大な数の採卵が行われ、多くの女性の身体負担は軽いものではないと考えます。その一方で精子については、とりあえず精子がいれば使用するといったむきも無いわけではなく、その精子の質については多く議論されず重要視もないことが多いものです。それでは成功率の低い生殖医療が反復され、いたずらに医療費がかさみ、女性の負担が増えることになります。

したがって、如何に精子の質を上げるかについて、男性因子として、少しでも改善できる可能性があるものであれば、取り組んでいくべきではないかと考えています。不妊治療が男女の負担がアンバランスではいけないと思います。今後は、精子がいるので生殖医療に用いるといった安易な考えではなく、詳細な精子の内部のDNA損傷レベルまで評価できる時代になってくれば良いと考えています。したがって男性諸氏にも、妊活においては、頑張っていただくことを期待しお願いはします。

精子の質を上げるために

生活習慣の改善、悪しき嗜好品の中止、運動不足解消から積極的な体力作り率先、性感染症の予防と治療、積極的な性生活の改善、抗酸化ビタミンの摂取、などです。また射精精子のDNA損傷を起こす可能性のある精索静脈瘤については手術的な治療などもお願いしご負担いただくこともあるかもしれません。

また最近の知見では、一部射出精子の不良な症例においては、その精子の輸送経路である精巣上体、精管、精嚢などの通過時間経過によって、酸化ストレスなどの精子DNA損傷が精巣内の誕生したての精子よりも増大し妊娠力の低下、しいては誕生子孫の疾患の増加に関与しているとも言われており大変重要な事実です。また一見精子が射出していても、非常に細胞内部のいわゆる「老化」の早い精子が多い症例もあるとされており、従来では射出精子があれば精巣内部から精子を採取することはなかったのでありますが、この古い考えも変わってきております。精子の質の観点からみて、精巣内精子の積極的な利用も症例に合わせて積極的検討をすべき時代になっています。

「よりDNA損傷の少ない良質の精子を得るか」が我々男性に向き合う医師の大切なテーマであると思います。そのため、あらゆる総合的アプローチにて、皆様と一緒に力を合わせて妊活のご助力となりたいと切に願っています。

精液検査や精子の所見についてよく聞かれる言葉

①精子が少ない、精子濃度が低い、精子数の減少、など

これは乏精子症のことです。現時点では1,500万の精子が1mlの精液中にいることが最低基準値ですが、実際にはこの基準値を満たしても、自然妊娠の確率が高いとは言えません。できるだけ多い精子、実際には4,000万/ml程度以上の濃度が望ましいように思われます。また禁欲期間によっても、精子の数が変動します。個人差があり、1~2日くらいの禁欲期間では精子数が割と減少する症例もあります。一回の検査より、複数検査にて平均の値で評価しておくことをお勧めします。また禁欲の期間で自分がどの程度精子数の変化があるか知っておくことは妊活のタイミングを予定する生活プラン作成の一助にもなります。

②精子の運動性が悪い、精子の動きが悪い、精子の元気がない、など

これは無力精子症のことです。無力とは、精子の運動性が不良なことを言います。精子のしっぽの部分の鞭毛の活動性が低下している状況です。あるいは精液の所見が不良で、精液の性質によって、精子の運動が阻害され、精子の運動低下になっている場合もあります。精子の運動が悪いときには、精子自体、そして精液の性状の二つの点から評価、治療をすることが必要です。また精液検査の検体の環境によっても左右されます。自宅から採精した精子検体を評価する場合など、気温の影響もありますし、不適切な容器の選択のため精子の運動が悪くなることもありますので注意が必要です。

③精子がいない

無精子症の疑いがあります。厳密には最低もう一回は精液検査を詳細に行って、くまなく精液を探索して、精子が一つでもいないかどうか調べておくことが望ましいです。無精子症を指摘された場合でも、詳細な精液検査、あるいは遠心分離濃縮して検体を再評価することで精子がごく少数見つかることも時にあります。

④フーナーテスト(ヒューナーテスト)で精子が少ない(無い)と言われた

精子の数が少ない可能性があります。確定ではありませんので、精液検査を正確に行って精液のしっかりした評価を行うことが必要であると思います。このテストだけで精子の状態を正確に言い切ることはできませんが、スクリーニング的に行うことは意味があります。少なくともフーナーテストが良好であれば精子の状況は良いだろうとは推測できます。また女性の子宮頸部などの粘液と精子の相性も分かりますのでフーナーテストで精子が元気に動いていれば女性の体内でも活発に運動できる精子だと言えます。

⑤精子の質が悪い、形態の異常、奇形が多い

奇形精子症を疑います。正常形態の精子で、かつ運動性も保っている精子がある程度いれば多少の奇形精子がいても男性の妊娠力があると言えますが、奇形精子があまり多い場合は原因精査も必要であると言えます。婦人科の精液検査では、漠然と、精子の質が悪いといわれたときに、精子の運動性が悪かったり、精子の奇形が多いケースが目立ちます。

精子をいかにして増やすか?

精子を簡単に増やす、魔法のような方法は今のところありませんが、精子の形成は日常生活や男性の健康状態に密接に関連しており、生活習慣、食習慣、そして運動習慣などで改善を目指していくことは大変重要であると言えます。医学的サポートのみでは不十分で日々の生活の中に精子改善のためのヒントがたくさんあると言えます。

①喫煙はしない、禁煙する

タバコの影響で精子の数も運動性も低下することはデータがあり20%弱も精子数が減少する可能性を示唆する研究結果もあります。体全体の健康のためにも喫煙はやめましょう。また喫煙者は禁煙しましょう。

②運動不足にならない、一日座りすぎではないか注意する

運動不足はいろいろ全身の健康状態の悪化、基礎体力の低下につながり、筋力低下や生活習慣病誘発の端緒ともなります。一週間の生活を振り返って、汗をかいて息を切らせてしっかり運動するような習慣が皆無の人も最近では多いものです。またデスクワークが長時間で座りすぎていないか?も大切な問題です。特に日本人は座っている時間がとても長い傾向にあるといわれています。男性の長時間の座位保持は、会陰部や陰嚢部の圧迫傾向やうっ血傾向の助長のリスクを上昇させます。性機能への悪影響や、慢性的な前立腺炎症状の悪化にも関連があるとされています。下肢全体の血流障害にもつながりますので、長時間の座位のお仕事などの場合には、定期的に中座して少し歩いてみたりして骨盤や下肢全体の血流改善に努めましょう。

③アルコールは飲まないかごく少量で

習慣的なアルコール摂取も精子形成にはマイナスとなります。真剣に精子の増加を狙うなら週にビールならコップ数杯程度以下で、と推奨する報告もあります。よく言われる、アルコールはほどほどで・・・くらいの気持ちでいるとついつい多く飲んでしまいがち。基本的にアルコールは摂取する必要性は全くない栄養素です。妊活を真剣に考えるのであればアルコールの習慣摂取には一考が必要です。

④射精はある程度定期的に行うべし

一週間以上射精がないと精液中の死滅精子など不良精子の割合が増加します。毎日射精する必要性はないですが、個人差はありますが、性欲があれば頻回に射精して悪いことはありません。タイミング療法などで時に数週間程度も射精を我慢する方もいらっしゃいますが、不良精子の割合も増加するので、いわゆる射出精子の質は低下する可能性はあります。週一回程度は定期的に射精して精液中の精子のリフレッシュを常に考えたほうが良いと思います。精子は次から次へ産生されますので射精が多くて枯渇することは基本的にはありません。ただし、連日の射精では、個人差がありますが精子濃度が減ることはしばしばありますので、可能なら連日射精中の精液検査データと、一週間禁欲の時の精液検査データを、実験的に検査して把握しておくとなおよいかと思います。参考までですが、役立つ場合も少なからずあります。

⑤健康的な食習慣を

健康的とはむつかしい表現ですが、当たり前のバランスの良い、添加物のできるだけ少ない、栄養をしっかり含んだ食事と言えます。極端なダイエットや偏った食事では基本的な体つくりはもとより、元気で良質な精子の形成には悪影響となります。 そこでいくつか精子にとって重要度の高い栄養素のお話を少ししたいと思います。

葉酸

女性の妊活では葉酸の摂取は非常に有名ですが、男性にとっても非常に重要であることはそれほど知られていません。葉酸は遺伝子つまりDNAやRNAの生成に必須であり、赤血球の形成、神経組織の発生などにとても重要なカギを握っています。
男性も葉酸の摂取をしっかりすることで、精子の内部のDNAの損傷が20%以上も減少するとの報告もあり、精子の形成や成熟に欠かせないのが、この葉酸です。男性諸氏もこの葉酸を積極的に摂取しましょう。場合によっては良質なサプリメントの摂取を推奨します。一日に葉酸は240マイクログラム程度の摂取が必須です。しかし日本人の一日平均葉酸摂取はこの数値を上回っていますが、言い換えれば、一部の男性は必要な葉酸が摂取できていない人もいるということです。過量摂取は、通常の食生活ではまれなので、サプリメントのとりすぎに注意しつつ十分量の葉酸を摂取しましょう。また日常生活の食品では、レバー、ブロッコリー、ホウレンソウなどによく含まれています。

亜鉛

インターネットやCMで精子に対して、あるいは、精力増強に対して亜鉛がたくさん宣伝されています。しかし亜鉛は確かに必須のミネラルで、欠かせないものですが、実際のところ、魔法の様に精子の増加作用はあまりないものと考えて良いと思います。日常生活で通常の食事をとっていれば、亜鉛が不足することは非常にまれであると考えられます。高齢者や寝たきりの症例などで実際亜鉛不足からの臨床症状、皮膚炎などがおこることはありますが、活動性の高い年齢で普通に食事している場合での、本当の亜鉛不足に出会うことはまずありません。むしろ、亜鉛の過剰摂取が心配です。亜鉛を過剰にとっても精子にメリットはありません。銅など他の必要なミネラルが喪失しやすくなるなど、亜鉛過剰摂取のリスクの方が高いように考えています。確かに適切に必要な分を補充する意味で、マルチミネラルのサプリメントなどで適正摂取することは大切ですが、亜鉛の過剰な信仰は、一つ注意して対応すべきであると言えます。むしろ鉄分不足や、意外にマイナーですがマグネシウム不足などの方が大切なように思います。

抗酸化ビタミン

これは非常に重要な成分です。人体の健康の根源にも関わります。人間は常に酸化ストレスにさらされており、その抗酸化作用は、健康維持に必須です。ビタミンCやビタミンEさらにコエンザイムQ10は非常に精子には大切な働きをしますし積極的に摂取することが強く推奨されます。また最近ではビタミンDの抗酸化作用も注目されていますが、ビタミンDは適度な日光浴で体内合成が推進されるため、過剰に日光を回避することも男性にとっては一考が必要です。ビタミンCやビタミンEは一般臨床外来で、処方薬として提供は可能ですが、コエンザイムQ10について処方箋薬は今のところありませんので、各自安全なサプリメントなどの購入と摂取が必要となります。

タンパク質

これはスポーツ選手だけでなく一般男性諸氏に特に注目していただきたい栄養素です。体つくりに十分なタンパク質摂取は必要ですが、アスリートレベルの様に体重1kgあたり一日で2~3gのタンパク質摂取は必要ないかもしれませんが、体重1kgあたり最低でも1~1.5gくらいは摂取したいところです。実際カロリー摂取を避けて良質なタンパク質摂取をすることは意外に難しいもので、ステーキ肉などもタンパク質摂取とともに結構な脂肪も摂取することになるので注意してください。タンパク質摂取を十分にすることで疲労回復効果、毛髪、皮膚の健康回復、精力増強にも効果を実感する時もあるでしょう。人体形成の基本材料がタンパク質ですので当然のことと言えます。タンパク質が消化吸収されてできたアミノ酸が精子の形成に利用されます。
余談ですが、男性の体つくり、筋肉をつけるためには、このアミノ酸の中でも分岐鎖アミノ酸BCAAというバリン、ロイシン、イソロイシンが特に重要です。これらは必須アミノ酸といわれ体内合成ができないので外部からしっかり摂取することが必要なアミノ酸です。運動時の疲労抑制効果、筋肉分解抑制、異化亢進抑制に効果があります。

⑥陰嚢部の温度上昇に気をつける

これは様々な日常生活の行動で注意が必要となります。精子が順調にされるためには陰嚢の温度が体温より数度低く維持されることが望ましい環境なのです。実際、陰嚢は多くの哺乳類の雄でもしっかり垂れ下がっているものです。つまり陰嚢の温度、精巣の温度を上げてします行動は慎むべきです。非常にタイトな下着の着用であったり、長時間座ってデスクワークで陰嚢が蒸れて高温になることは、精子形成にはよくないことです。また肥満の場合には、大腿部のお肉で陰嚢周囲の空間が減少して陰嚢内部の温度が上昇しやすくなることが分かっています。過剰なサウナ浴や、長時間の熱い風呂の入浴なども良くないでしょう。一度自分の陰嚢を握って確認してみても良いと思います。少しひんやりしてしっかり垂れ下がっているようであれば精巣には良い環境でしょう。熱くなっていたり、蒸れているなどの場合には暖まっている可能性があります。男性不妊にとって、とても大切な精索静脈瘤の悪い影響の筆頭が、陰嚢の温度上昇であります。
戦国時代の覇者、徳川家康公にも仕えていた天台宗の高僧、天海和尚は、長寿で有名でありましたが、武将にとって健康と大成に大切な生活習慣の要点の一つに「だらり」と述べたといわれています。「だらり」とは陰嚢が垂れ下がっている状況のことです。緊張したり、ストレスと感じても挙睾筋が収縮して精巣が持ち上がって陰嚢はだらりとはなりません。大業を成し得て、しかも数多くの子孫を残した、徳川家康公の人生を見ると、この「だらり」。誠に言い得て妙であると私は強く思います。

精子の遺伝子の断片化のお話

精子の中には受精卵の元になる、とても大切なDNAがあります。このDNAは遺伝子といわれますが、その断片化、つまり損傷が、受精に多大な影響を及ぼすことが分かっています。
その精子の遺伝子の断片化も検査しておおくことが大変有意義だと言えます。
この検査は精子遺伝子断片化率(DFI)検査とか、精子クロマチン構造検査などと呼ばれます。

この遺伝子断片化率が高いと、受精率の低下、流産率の上昇につながります。つまり、体外受精や顕微授精の際に、精子の選別も大変重要だということです。 流産することは、動(やや)もすると、女性の責任にされがちですが、全くそういうことはありません。不良な質の精子だと流産率が上がることは明らかであり、男性の責務も重大であるということです。

検査の実際としては、精子を蛍光物質の、アクリジンオレンジにて染色して、その際、DNAの断片化が無い精子は緑色に蛍光染色されますが、DNAの断片化がある精子は赤色に蛍光染色される特性を利用します。フローサイトメトリーという細胞分析装置を用いて、これらの精子染色具合、蛍光色の分布の分析から、精子の断片化率が計算されます。断片化率は、全体の精子数のうちの、何個の精子がDNA断片化が起こっているか、の割合のことです。

DNA断片化の、主たる悪役は、酸化ストレス物質であるとされます。適切な抗酸化物質の十分量の摂取、生活習慣、精索静脈瘤の加療などなど、酸化ストレスの減少や対抗に有効な習慣が極めて重要であります。また男性の精子DNA断片化の年齢変化については、40歳以上で優位に、精子DNA断片化率が上昇しているとの研究結果もあり、男性諸氏も年齢要因については、注視せねばなりません。卵子の老化ばかり唱えているだけではダメです。

顕微授精や体外受精など、肉体的にも経済的にも負担の大きな処置の場合、精子にも十分着目して、如何に良好な精子を選別して適切に使用するか?が、希望の結果への近道であることは明らかです。近い将来にあらゆる体外受精、顕微授精などの生殖補助医療において、迅速簡便に、精子の理想的な選別が可能になる日もそう遠いことではないと確信しています。

亜鉛のお話

亜鉛のサプリメントが精子に良いとの広告などがたくさん目に留まります。確かに人間には必須のミネラルですが、実際の亜鉛の働きなどを知らない人も多いものです。

亜鉛は体内の数多く、数百種類以上の酵素の活性に必須であり、細胞分裂やDNA合成にも必要不可欠です。大切な機能としては下記のものがあります。

  1. ① 皮膚の代謝
  2. ② 生殖機能(男性の精子にはとても関連は強いものがあります)
  3. ③ 骨格の成長や小児期身長増加
  4. ④ 精神的働きへの影響
  5. ⑤ 免疫機能への影響

亜鉛は人のからだ中に分布しますが、60%程度は筋肉にあります。20%程度が骨にあり、皮膚が8%程度、肝臓5%程度、などが主な分布先です。

日本人の場合、一日の推奨亜鉛摂取量は、成人男性11mg、成人女性8mgであり妊婦さんや授乳している女性11mg程度とされていますが、実際の統計では少し一日摂取に不足が見られることが多いようです。特に妊婦さんの亜鉛摂取が少ない傾向にあり問題視されています。

亜鉛が欠乏する、亜鉛欠乏症はどのような症状があるのでしょうか?

  1. ① 皮膚炎、口内炎、脱毛、床ずれ(褥瘡と医学用語で言います)など皮膚症状
  2. ② 免疫力低下、感染しやすい
  3. ③ 味覚異常
  4. ④ 不妊症や性腺機能低下症
  5. ⑤ 小児発達障害

などになります。
血液検査(早朝空腹時が望ましい)にて亜鉛の欠乏症か診断は可能です。

全身状態の不良な症例、低栄養症例、高齢者、菜食主義者(動物性たんぱく摂取不足)などで亜鉛不足が生じやすいと思われます。
あと実際に非常に臨床上重要なことがあります。
亜鉛は通常は尿排泄は極めて少ないですが、ある種の薬物の長期摂取をすると、亜鉛と結合して(キレート作用)尿への亜鉛排出が多くなるため、亜鉛の欠乏症につながる可能性のある状況となるという事実です。
それら長期服用で亜鉛欠乏症につながる可能性のあるもので、日常臨床でよく使用される薬剤を下記に示します。

  1. ① 高尿酸血症の薬、アロプリノール
  2. ② 消炎鎮痛薬、インドメタシン
  3. ③ うつ病の治療薬、イミプラン
  4. ④ てんかんの薬、カルバマゼピン
  5. ⑤ 免疫疾患の治療薬、アザチオプリン
  6. ⑥ 躁うつ病などの治療薬、炭酸リチウム
  7. ⑦ パーキンソン治療薬、Lドーパ

などが代表的です。
上記薬剤など定期で長期内服している方も少なくないと思いますので、気になれば亜鉛測定をしてみてください。