精索静脈瘤 顕微鏡下精索静脈瘤手術について
精索静脈瘤とは、精巣から、心臓に帰るべきはずの静脈血流が良くないため、古い血液が精巣静脈内部に溜まって、うっ血したり、精索内部の静脈が拡張して、こぶ状となり、血液逆流が起こりやすいとなっている状態のことです。精巣の温度上昇を来たし、精巣内部の精子の形成に悪影響を与えます。
男性不妊症の中でも原因疾患として最も多いものですが、手術にて治療することが可能です。精子の所見に問題がある症例の40~60%程度がこの精索静脈瘤が原因と言われており、第二子不妊の場合には80~90%がこの精索静脈瘤による男性不妊症とされています。手術にて適切に治療することで、精巣の血液循環が改善され、精巣の細胞の環境が良くなって、数ヶ月後から精液の検査結果が約70%の症例で改善していくことが期待できます。つまり適切な精索静脈瘤の治療で、より妊娠しやすい条件が整います。しかし、適切に精索静脈瘤への手術加療を行っても、精子の所見が改善しない症例が一部あります。
乏精子症や無力精子症の原因として大切な精索静脈瘤ですが、精子の所見悪化には他の因子も関連があると推測されています。手術の決定においては、ご自身の意思で熟慮し判断することが大切であると言えます。メリットとデメリットをしっかり確認して、手術の希望については自分の自由意思で決定してください。
ここでは当院でも手術数の多い、顕微鏡下精索静脈瘤手術について述べていきます。
精索静脈瘤の治療について(顕微鏡下精索静脈手術)
精索静脈瘤の各種手術治療の中でも、安全性が高く治療効果も高いと考えられるものです。局所麻酔でも施行可能であり、当院では全例この手術術式、局所麻酔にて、精索静脈瘤治療をしております。
半日程度の休暇を取れれば日帰りの外来手術で対応可能です。 健康保険適応の手術療法であるため、通常の健康保険適応の料金設定となっています。おおむねの自己負担金額については、手術料金や諸費用を込みで、片側の場合で約50,000円程度、両側で約85,000円程度となっております(※2024年時点の料金概算です。他薬剤費などが調剤薬局にて必要です)。
以下におおむねの手術の流れを説明していきます。
手術の流れ
<手術当日>
- 手術当日の体調のチェックと最終的な同意書の確認などを行います。
- 術前にお会計や処方箋発行など行い次回の予約も済ませます。
- 処置室に入室します。
- バイタルサイン(血圧 体温 脈拍など)を測定・確認します。患者さん専用の鍵付きロッカーがありますので荷物を入れて手術用の衣類にお着換えしていただきます。靴下は希望があれば着用のままで大丈夫です。
- アクセサリーはすべて外します。眼鏡やコンタクトはどちらでも構いません。
- 手術部の毛の処理をします(術前に自宅ですることをお願いしておりますので確認作業です)。
- 手術部の切開する場所に麻酔薬のシールを張り付けします。
- 点滴確保、鎮静薬の筋肉注射など手術の前投薬を行います。
- 看護師から手術前後の生活指導を聞いてもらいます。
- 手術室入室し手術を行います。
<手術の開始>
- 局所麻酔薬によって適切に手術部位の鎮痛処置をします。しかし触った感じや精索を引っ張るときのけん引される感覚は多少残ります。
- 鼠径部に3-4cm程度の小さい傷で皮膚を切開します。
(吸収糸で縫合するので抜糸は基本的に不要です) - 精索(精嚢に向かう動脈・静脈・リンパ管などの集まった束で15ミリほどの直径)を露出します。
- 顕微鏡で手術します。大切な動脈やリンパ管や神経は温存して傷つけずに、静脈瘤の異常な血管(拡張した内精索静脈)のみ処置(低位結紮)をして精巣に古い汚染された静脈血が逆流しないようにします。
- 止血確認して傷を閉じて終了です。
- 当院では精索静脈瘤の処置の際、挙睾筋、リンパ管、精索周囲の陰部大腿神経、動脈、リンパ管について温存するよう心掛けています。静脈瘤以外の大切な組織は全て傷つけないように最大限の注意を払います。
- [ 手術時間 ]
- 精索の血管の数、走行、皮下の脂肪量、麻酔薬の効き具合などで左右されます。
通常は片側のみで40分程度の手術時間、両側の場合で70~80分程度の手術時間で済むことがほとんどです。
※手術中に、傷痛みや陰部の不快感などまれに起こりますが、その時は休憩しながら、患者さんのペースで手術を行いますのでご安心ください。
※両側の手術予定であっても、局所麻酔が多く必要になったり、体調や気分の不調があれば、片側手術のみで終了して、後日反対側手術することもまれにあります。安全第一で考えていきます。
<手術の後>
手術室横の回復室にてゆっくり安静に休んでいただきます。術後12時間は厳重に安静を厳守してください。内出血の危険性が高まります。
術後は120分程度回復室で安静にして念のため経過観察を行います。手術翌朝の朝の診察は必須です。遠方からの手術希望も多いですが翌朝診察は必要とさせていただきます。
また手術当日から翌朝までは万が一の緊急に備えてクリニックにすぐに来られる場所で過ごしてください。
手術当日から翌朝までのオンコール当番への直通電話番号なども手術時に説明し安全確保のため万全の体制でバックアップして参ります。
手術の合併症について
- 内出血(創部から陰嚢にかけての皮下出血が原因):0.5%以下
- 傷の感染、化膿:まれです。
- 精巣萎縮(精巣が小さくなる):まれです。
- 陰嚢のむくみ:これはしばしばみられます。少しむくんだ感じでほぼ全例2週間程度で自然治癒します。体への問題はありません。手術の自然な影響のためのむくみです。
- 傷の痛み:これは軽度ですが数日から数週間(個人差があります)。
手術後の経過観察について
約3~4ヶ月すると70~80%の症例で精液の検査結果が改善します。この時期に精液検査の再検査が必要です。最低でも1年くらいは経過観察が必要です。残念ながら検査結果があまり変わらない一部の症例には薬物的な治療も追加して経過観察となります。
「精索静脈瘤」の手術を
受けられる患者さんへ
無精子症
無精子症とは、精液中に全く精子がいない状態で、下記の分類があります。
- 精子が作られていない状態。(造精機能障害)
- 先天的な要因(特発性造精機能障害、染色体の異常、ホルモンの欠損症など)
- 後天的な要因(内分泌障害、抗がん剤などの薬物や放射線の影響、外傷の影響、ムンプス精巣炎などの後遺症など、精巣摘出の手術後など)
- 精子が作られているが、種々の原因で体外に出てこない状態。(閉塞性無精子症)
無精子症の治療について
治療方法は無精子症の要因によって異なりますが、まずは詳細な原因検索をしていきます。ホルモンの検査、精巣や精管、精嚢、前立腺などの画像検査、尿の感染症検査、などいくつかの検査項目があります。
ホルモンバランスの異常など内分泌に問題がある場合
ホルモンの異常の治療のため、薬物療法になることが多いですが、一部の症例では下垂体のプロラクチン産生腫瘍なども見つかり外科的治療に移行するケースもあります。
先天的に精子が作られていない場合
いわゆる非閉塞性無精症の症例ですが、精巣内部にはわずかに精子が存在している可能性があるので、そのわずかな精子を採取する目的で、顕微鏡下の精巣内精子採取手術を行うことがあります。またその原因検索のために、染色体検査に加えて、Y染色体微小欠失検査(Y染色体の中の精子の形成に重要な遺伝子領域の検査、AZF領域と言われます)をあらかじめ行って、精巣内部の精子の存在の予想や、将来的な顕微授精などの後の子孫への継代のリスクなどを評価することもあります。
顕微鏡下精巣内精子採取手術について
手術の流れ
<手術当日>
- 手術当日の体調のチェックと最終的な同意書の確認などを行います。
- 術前にお会計や処方箋発行など行い次回の予約も済ませます。
- 処置室に入室します。
- バイタルサイン(血圧 体温 脈拍など)を測定・確認します。
- 患者さん専用の鍵付きロッカーがありますので荷物を入れて手術用の衣類にお着換えしていただきます。靴下は希望があれば着用のままで大丈夫です。
- アクセサリーはすべて外します。眼鏡やコンタクトはどちらでも構いません。
- 手術部の毛の処理をします(術前に自宅ですることをお願いしておりますので確認作業です)
- 手術部の切開する場所に麻酔薬のシールを張り付けします。
- 点滴確保、鎮静薬の筋肉注射など手術の前投薬を行います。
- 看護師から手術前後の生活指導を聞いてもらいます。
- 手術室入室し手術を行います。
<手術の開始>
- 局所麻酔にて鎮痛処置をします。
- 陰嚢部に小さい横切開をします(陰嚢皮膚に隠れ目立ちません。たまに縦切開の症例もあります)。
- 精巣を包む白膜を露出して、顕微鏡下に手術をすすめます。
- 白膜切開して精巣内部の組織を観察します。
この際、精巣の微細な血管は丁寧に温存して、精巣へのダメージを最小限にします。
精巣組織をよく観察して、精子の含まれていそうな部位(精子のいそうな精細管を採取しますが少し拡張気味でやや白濁した印象がありますので虚脱している精子の居ない精細管とは顕微鏡所見が異なるので判断できます)を少しずつ探索して、その都度、顕微鏡で精子の有無を確認します。
ごく少量ずつの組織採取と探索を継続して、顕微授精ができる精子の採取を目標にします。
目的の精子採取が完了すれば止血処置をして、傷を閉鎖し終了です。
- [ 手術時間 ]
- 30~90分程度
創部については、精巣の白膜、漿膜、筋層(ダルトス筋膜)、皮下、皮膚と各々の層で吸収糸にて丁寧な縫合を心がけています。
<手術の後>
手術室横の回復室ベッドに移動して安静にしていただきます。精巣の手術の場合、傷の痛みより、手術した睾丸側の鼠径部や下腹部に鈍痛が生じることがしばしばありますので術後120分程度痛みなど観察して休憩します。
追加の鎮痛薬座薬なども適宜使用します。手術後12時間は絶対に安静を保ってください。内出血の危険性が高まります。
また手術当日から翌朝までは万が一の緊急に備えてクリニックにすぐに来られる場所で過ごしてください。
手術当日から翌朝までのオンコール当番への直通電話番号なども手術時に説明し安全確保のため万全の体制でバックアップして参ります。
手術の合併症について
- 陰嚢の腫大、内出血など(めったにありません)
- 傷の感染(まれです)
- 術後の男性ホルモン低下
まれですが、術前の採血検査、精巣容積などから、予想がつきますので可能な限り予防します。
必要以上に精巣組織を痛めつけることは回避いたします。
ドクターからメッセージ
最後に残念ながら、必ずしも全例で精子採取が可能なわけではありません。したがって、この手術術式は、お子様を授かるための手段ではありますが完璧な手段ではありません。不成功に終わる可能性も含まれていることは、十分に御理解ください。しかし、実子が欲しいご夫妻には必要不可欠な手術です。結果に満足いかない場合は、ご夫妻と詳細に面談の上、次の方針を決定いたします。
「精巣内精子採取手術」の手術を
受けられる患者さんへ
包茎手術
包茎について
包茎には
- 真性包茎
- 男性器の亀頭部が包皮(皮膚)に包まれたままで外に露出しない
- 仮性包茎
- 非常に露出しにくい状態(通常は皮が亀頭を覆っている)
- 嵌頓包茎
- 包皮が狭小化(狭いところがある)しているために勃起時や包皮飜転(皮をめくる)時に陰茎を締め付けてしまい痛みがある、または腫れてくる(一部は緊急で整復が必要)。
などの症例があります。
包茎自体が緊急性の高い疾患ではありませんが、亀頭部が常時皮膚に覆われていますので、不潔になりやすく、性感染症のリスクが高いなどと言われております。また勃起時痛みなどあれば性行為障害につながりますので、手術にての治療をお勧めします。
包茎の手術について
※重症の真性包茎以外は保険適応外の手術になります(料金表参照)
- 局所麻酔にて30分程度で終了します。
- 見た目がきれいに、格好良くなるように手術は工夫します。
- 性感の敏感な皮膚は温存して性行為に支障がないように配慮します。
- 溶ける糸で縫合しますので抜糸などの処置は不要です。
- 浮腫(むくみ)はほぼ全例に起こります。約1~3週間で自然軽快します。
- まれに感染や縫合不全(再縫合が必要になることはめったにございません)があります。
- 医師の診察指示にしたがって入浴や性行為は開始可能です。
- 入浴や性行為の開始などについては、医師の指示にしたがってください。
- 術後、安全のため数回は診察が必要になりますのでご理解ください。
「包茎手術」の手術を
受けられる患者さんへ
手術検討中の方々へのお知らせ
当院で行っている主な手術について、手術をご検討される際の参考になるべく、当院での手術についての説明をご覧いただく事も可能になりました。
実際、手術をお考えの方などご参考になさってくださると幸いです。術前であれば当院担当医師や担当看護師からも同様な説明は詳しくいたします。
【選定療養費、予約料について】
当院で手術を受けられる方は、所定の予約料が必要になります。
平日¥4,400、土日¥7,700
手術の日に、精算をしていただきます。返金は不可となります。近畿厚生局届出済。ご協力を宜しくお願いいたします。