精索静脈瘤とは

精索静脈瘤のイメージ

精索静脈瘤とは、精索内部の内精索静脈の瘤(こぶ)のことで、静脈のうっ血、拡張の状況を言います。精索とは、精巣の血管などが束になった索状物です。

精索組織の内部の静脈の血流が鬱血(血液の流れが滞ること)し、ひどくなって逆流したりすることで静脈が拡張している状態のことを言います。精索静脈の細かい逆流防止の弁機能の低下で逆流やうっ血が起こります。精巣静脈は左右で走行が異なり、直接腎臓の静脈に合流する左の内精索静脈の方が、下大静脈に斜めに合流する右の内精索静脈よりも、物理的にも静脈瘤がかなり発生しやすいです。したがって精索静脈瘤は90%が左であり、両側の症例は10%くらいです。

下肢の静脈瘤は、中高年の女性などに比較的多い疾患で、時折下肢の静脈血管がミミズ腫れになったものを目にするかもしれませんが、理屈は同じようなことです。

下肢静脈瘤の精巣バージョンが精索静脈瘤と考えてもよいでしょう。

精索静脈瘤は聞きなれない単語かもしれませんが、男性不妊(症)にとっては非常に大切な疾患であります。疾患といっても正常男子の10~15%くらいの症例に無自覚の精索静脈瘤があり、比較的一般的な疾患・病態です。

精索静脈瘤があるからといって、全員に障害や症状が出るわけではありません。精索静脈瘤で自覚症状(陰部の痛み 不快感など)を感じる症例は少ないです。時折、左の陰嚢が腫れていて気になるとか、左右の陰嚢で大きさ形が気になって受診される方もいますが、多くは無症状であります。

男性不妊症や精索静脈瘤の診断や手術治療を専門的に診療する泌尿器科医師に診察してもらい精査を受けないと精索静脈瘤の診断は難しいです。

そして男性不妊症の40-50%程度が、精索静脈瘤が原因となる精子の異常所見による男性不妊症なので、赤ちゃんが欲しい挙児希望のカップルにはとても大切で、まず記憶しておくべき疾患です。

なぜ男性不妊に大切か?

精索静脈瘤は精子を作る機能を妨げることがあります。
本来ならばスムースに心臓に帰るべき静脈血が、精巣付近にうっ血、時に逆流したりすることで、精巣の温度上昇が起こります。精巣は体温よりも3-4度低い温度環境で精子を作る能力が維持できます。精巣の温度上昇は、精子を作る働き(増精機能)の低下を起こすのです。
また静脈血は、老廃物も多く、過酸化物質もあり、精巣細胞への酸化ストレス、代謝的なストレスも大きな精巣機能悪化の原因となります。
したがって、これら精索静脈瘤による血流障害のため精巣の内部の細胞や遺伝子、DNA、タンパク等へダメージが起こります。

精索静脈瘤の病態とはこのように血流異常といってもかまいません。
精巣の内部には精子を作りだす細胞や男性ホルモンを作りだす細胞などが混在していますが、特に精子のもとの細胞はデリケートで環境変化に弱いものであり精索静脈瘤から起こる血液循環の異常でもすぐに働きが低下します。
前述のダメージ、つまり精巣温度上昇、組織内部酸素濃度低下、酸化的なストレス、老廃物の悪影響などがあり精子の内部のDNAレベルでも損傷が起こる可能性があります。
精子そのものだけでなく精子の内部のDNAが傷つけば、当然受精率の低下、妊娠確率の低下に直結することは、容易に想像できます。
精子の元の細胞の働きの低下は、精子数の減少(乏精子症)、精子の運動率の低下(無力精子症)、精子の奇形発生率上昇(奇形精子症)などにつながります。
以上の点から精索静脈瘤がとても大切な病態であることが少しでも分かっていただけたならば幸いです。

精索静脈瘤の診断

精索静脈瘤の診断のイメージ

まず、陰嚢、精索部をよく見てみましょう。いわゆる視診・見た目です。ひどい重症の精索静脈瘤の場合は、患部の側の陰嚢(精索部)の視診で明らかに膨大が容易に素人目にも確認できることもあります。「睾丸が腫れている。」「陰嚢がぼこぼこしてコブがある」「左右の陰嚢サイズが違う」などの主訴で来院されるケースもあります。
診察の場合では、まず仰臥位(あおむけ)に寝て、患部の診察、視診、触診、エコー検査です。そして半分座位になってもらい下肢は少し伸展してリラックスしてもらいます。愛護的な精索静脈瘤の触診で、血管の感触を確認します。同時に精管(精子が通るパイプ)や精巣、精巣上体なども異常がないか丁寧に診察します。
最後に血流確認のためのカラードップラー超音波検査です。非常に体表の浅い部分が見える周波数の高い繊細なエコープローブを用いて、微細な直径数ミリ以下の血管の血流もチェックします。リラックスの状態、少し腹圧をかけた状態、息止め、咳払いなどの状況下で血流を調べ精索静脈瘤の血管直径や血流速度を測定し最終的な診断とします。
この検査、そして精液検査、ホルモンの採血検査結果、臨床症状、精巣の大きさや萎縮の状況などを総合的に評価して、精索静脈瘤の手術適応を決定します。
当院ではこの時リアルタイムでエコー検査のモニターを一緒に見ながら、詳細にエコーの検査所見を説明し、丁寧に、痛みや不快感の無いように配慮しつつ的確に検査をいたします。

精索静脈瘤のグレードと
手術適応について

精索静脈瘤の診察は、視診、触診、エコー検査によって詳細に行います。

精索静脈瘤のグレード分類

グレード分類 診察所見
グレード1 立位の状態で腹圧をかけた状態で触診可能である
グレード2 立位の状態で触診上、拡張した静脈瘤が触れる
グレード3 陰嚢の精索部が肉眼的に膨らみ怒張していることが見てわかる

確かに、視診や触診では主観要素も入ってきますので、エコー検査で内精索静脈の拡張度合や、逆流する血液の流量や流速なども重要な参考検査結果として評価し、その全体の所見によって総合的に手術適応などを判断します。基本的には、当院での手術適応は、精液検査所見に問題がある場合、痛みなど不快感がある場合(精索静脈瘤起因を疑う)に限られます。そして、かつ、グレード2以上の精索静脈瘤がある場合、内精索静脈の拡張が2.8~3.0ミリ程度の直径に明らかに怒張しているものが複数ある場合、などを主たる手術適応としております。

精索静脈瘤の手術療法

精索静脈瘤で手術適応があるもので手術を希望された症例には手術を行います。手術には下記のいくつかの術式があります。当院の手術担当医師は今まで下記1-3、すべての術式の手術を行って参りましたが現在の当院の採用術式は、顕微鏡下内精索静脈低位結紮手術(局所麻酔)です。患者さんの心身の負担が圧倒的に少なく再発率も低く、日帰り手術も可能な下記1番の顕微鏡下内精索静脈低位結紮手術が主流であると言えます。

  1. 顕微鏡下内精索静脈低位結紮手術(もっとも推奨される手術であると考えます)
  2. 腹腔鏡下精索静脈瘤手術
  3. 高位精索静脈瘤手術

精索静脈瘤の手術の概略

まずは簡単な大まかな精索静脈瘤の手術の流れについて説明いたします。
手術の準備から手術室のこと、その後のケアについてなどです。

  1. 当日朝にシャワーなどを済ませていただき局所麻酔と静脈麻酔(時に皮下・筋肉注射)などで十分に鎮痛処置をします。安全の為点滴も確保をしておきます。
  2. 鼠径部の外鼠経輪の少し尾側(下側)で3-4cm程度の切開で手術を行います。
    基本的に吸収糸で縫合しますので抜糸無しのことがほとんどです。
  3. 精索(精嚢に向かう動脈・静脈・リンパ管などの集まった束で15ミリほどの直径)を露出します。
  4. 顕微鏡で手術します。大切な動脈やリンパ管や神経は温存して傷つけずに、静脈瘤の異常な血管(内精索静脈)のみ処置(低位結紮)をして精巣に古い静脈血が逆流しないようにします。さらに精索の外部から流入する外精索血管についても悪い静脈は処置をしっかり行います。
    ※このように不良な静脈瘤のみを顕微鏡下にて詳細に観察して選択的に丁寧に一個一個処置する手術方式を当院では採用しておりますが、とても確実な方法であり、不用意な動脈やリンパ管損傷のリスクも最小限になります。
  5. 精巣の血流が問題ないこと、正確に精索静脈瘤の処置ができていること、手術部位の止血を念入りに確認して傷を閉じて手術は終了です。
[ 手術時間 ]
精索の血管の数、走行、皮下の脂肪量、麻酔薬の効き具合などで左右されます。通常は片側のみで40分程度の手術時間、両側の場合で60-70分程度の手術時間で済むことがほとんどです。当院での手術では、動脈やリンパ管の完全な温存、陰部の神経温存も行い、できるだけの手術時間短縮と疼痛軽減を目指しています。

※手術中に、傷痛みや陰部の不快感など時に起こりますが、その時は休憩しながら、患者さんのペースで手術を行いますのでご安心ください。大きな痛みが起こるとか辛くて手術ができないなどのような症例はほとんどございません。半数以上の症例は手術後半から居眠りしているくらいの状態です。

精索静脈瘤手術の合併症について

  • 内出血(創部から陰嚢にかけての皮下出血が原因):0.5%以下です。皮膚が打身のように少し紫斑がでますがほとんど自然軽快します。
  • 傷の感染、化膿:非常にまれです。
  • 精巣萎縮(精巣が小さくなる):極めてまれです。
  • 陰嚢のむくみ:これはしばしばみられます。少しむくんだ感じでほぼ全例2週間程度で自然治癒します。体への問題はありません。手術の自然な影響のためのむくみです。
  • 傷の痛み:これは軽度ですが数日から数週間の個人差があります。

精索静脈瘤の手術後の経過観察について

精索静脈瘤の手術をしてから、約3~6ヶ月すると、当院では約70%程度の症例で術後の精液検査所見の改善が得られていますが、一般的な報告では51%~78%の改善率のレポートがあります。なぜなら精子が誕生する際に精子の大元の精母細胞から成熟精子に成長するのに70日余りが必要だからです。
精索静脈瘤の手術を行うことで精巣内部の環境が改善して、精子の元の細胞の活動が改善することが手術の目的であります。したがって精索静脈瘤の手術後数ヶ月目の時期に精液検査の再検査が必要です。さらに3~6ヶ月くらいではあまり精液検査所見が変わらない症例もありますが焦ることはありません。術後経過観察は最低でも1年くらいは経過観察が必要です。
また重症な精索静脈瘤で猛烈に患部の精索部、陰嚢部が腫大していた症例も手術してから概ね2-6か月程で、異常な拡張があった精索静脈瘤血管群の萎縮と消退が起こり、だんだん腫れが目立たなくります。手術直後から、腫れていた精索部が完全にいきなり「ぺしゃんこ」になったりする急激な形態変化が起こる訳ではないので理解が必要です。
当院では手術後全例に数ヶ月以内に触診、エコー検査などで症例各々の精索静脈瘤治癒状況はしっかり確認します。その術後の期間に厳重に観察していきます。また精子の詳細な検査、そして精子の酸化ストレス測定など精子の遺伝子レベルでの変化なども詳しく見ていきます。さらに、精子改善のための、内服薬などの補助的な治療についてもアドバイスしながらケアを継続します。しかし、残念ながら検査結果があまり変わらない一部の症例があることも事実なのです。その症例には薬物的な治療も追加して経過観察したり体外受精・顕微授精へのステップアップを早めに進めたりすることとなります。

精索静脈瘤の再発と再手術について

精索静脈瘤の当院で採用している、顕微鏡下の低位結紮手術については、再発率はとても低く数%以下とされています。手術については鋭意努力しても完璧に再発をゼロ%にはできないのが残念ながら真実だと思います。
当院では、術後全例に、精索静脈のエコー検査を行い術後のチェックを行います。基本的には全例にカラードップラー超音波検査を術前同様に術後も詳細に行って血流チェックをします。少しでも気になる静脈があり、かつ、精子改善効果・疼痛や違和感の改善効果など、結果の芳しくない症例には熟考・精査の上、必要性があれば、執刀医としては勇気の必要なことではありますが、基本的に再手術を推奨・提案するようにしています。
癒着などのため一回目より多少時間がかかることも予想され、傷も多少大きくなったり、位置が変化したりすることがあります。麻酔効果も落ちることもあります。
しかし気になる問題血管を残存したままでは、完全な手術効果を得られにくいと言えますので、ご了承をいただき、必要な症例には迅速に再手術を提案し遂行しています。数年に一例程度の割合で手術症例はございますので、約250症例で1名程度の頻度ですが、当院で施行した手術であっても再手術症例はあります。
また他院で手術施行した症例で再発の相談症例も少なくありませんので、その場合の様に他院での手術後再発症例の再手術も必要性をしっかり吟味し相談の上で、行っています。
ゼロの再発目指して手術は常に努力研鑽していきますが、現状として再手術症例はまれだがあり得ることだと認識していただき、ご理解をいただければ幸いです。

医療法人男健会 北村クリニックで精索静脈瘤手術を希望する場合

まず、一度は受診に来ていただき医師から実際に診察を受けていただくことが原則必要です。そして、手術については、その診察時に直に医師としっかり相談することが望ましいです。
手術自体は基本的には連日(特別な休診日以外)の13:30~17:00頃の時に手術を行っており、空き枠のある限り申込は可能です。
当然、土曜日・日曜日も手術を行っておりますが、土日は特に希望者が多いため土日の予約が埋まりやすい傾向があります。
先着順で希望者から予約を埋めていきます。
通常1-2ヶ月程度先まで手術が満員のことが多いので、キャンセル待ちの連絡優先待機も承ります。手術のキャンセルが出たら(仕事や家庭の急用や最近ではコロナ関連の急なキャンセルなどが稀にあります)至急連絡するようにしております。術前検査と術前のオリエンテーションは全員にお受けいただきますが所要時間は20分程度です。遠方の方の場合でも手術前には必ず一度は診察を必要とします。
専門医医療機関で診断などが明確で、紹介状などがある症例の場合は、紹介状や検査結果を持参の上で受診に来て欲しいと思います。
他院で検査し手術も勧められた場合などでも、当院での手術希望目的での転院も、少なくありません。前医での資料や可能なら紹介状等を持参の上で、受診に来て相談も、歓迎します。ご遠慮なく申し出てください。
基本的には当院の場合、手術希望者全例に、執刀医から直接の検診、術前の検査や説明、手術ナースからのオリエンテーションは手術前に受けていただきます。また当然プライバシーに完全に配慮して対応いたしますのでご安心ください。
※正当な理由の無い手術のキャンセルは、手術を希望する多くの患者さんにも大変迷惑となり、私たち医療者側も大変困りますので、基本的に一旦お申込みをした手術についてはキャンセルを、正当な事由無しでは、しない様にしてください。当院の所定のキャンセル料などの設定もありますので詳細は説明の上、手術の同意書と共に確認と書類への署名を頂くことといたします。

精索静脈瘤手術を受けられた患者さんへ:術後のケアについて

当院にて顕微鏡下内精索静脈低位結紮手術(精索静脈瘤手術)を受けられた後の自宅でのケアや観察の要点について簡単に補足いたします。基本的な事項な手術前後の手術オリエンテーションにて詳細にお聞きになっているかと思いますが、お忘れになった場合など、このホームページ内でも確認できると思います。

まず手術後の、観察として、重要ポイントは、

  1. 強い痛みが無いか?
  2. 傷の周囲の腫れや、内出血がないかどうか?
  3. 精巣(睾丸)や陰嚢が異常に腫れてないかどうか?
  4. 麻酔や抗生物質などの薬剤のアレルギー反応はないか? などです。
  5. あとは体温などのバイタルサインのチェックと食欲など全身状態に異常がないかどうかが注意点です。
  1. 運動について
    手術翌日までは基本的には安静、その後は無理なくゆっくり再開してかまいません。しかし手術後10-14日間程度はきつい運動、激しい労働など、腹圧の高まる行動は禁止です。
  2. シャワーは手術して48時間程度経過すれば可能です。シャワー後に絆創膏の交換など創部の処置を毎日行って観察もしてください。当院では処置のことも指導します。
  3. バスタブ、湯船に浸かることや、スイミングは術後10日以上経過するまでは禁止といたします。稀に傷の治癒が悪い場合も適宜指示します。
  4. 手術した側の陰嚢は、術後数週間程度は多少のむくみや、少しの違和感程度はございます。軽度の症状であれば問題なく普通の生活をしてみてください。
  5. 性行為については痛みや、傷の汚染がなければ制限はございません。射精することも問題ありません。飲酒については術後最低でも抗菌剤内服期間は禁止してください。その後は傷に問題などなければ少量はかまいませんが、医師の許可をとってください。
  6. 傷の消毒について
    基本的に傷の処置も丁寧にオリエンテーションで指導します。創部を覆う絆創膏を丁寧に剥がしてから、傷の観察、そして傷の中心部から消毒開始して徐々に周囲の消毒を行うことがポイントです。処置の場所は素手で触らない様にしましょう。細菌が付着してしまいます。消毒後は術後ケアのセットとしてお渡ししている新品の絆創膏をしっかり貼り付けてください。シャワー後の絆創膏交換が良いでしょう。しかし汚れたりはがれたりすれば適宜交換消毒処置は行ってください。
  7. 抜糸後の傷について
    当院では吸収糸という溶ける糸で全例縫合していますので、抜糸は基本的に不要です。また、できるだけ綺麗な創部になるように工夫はしておりますが、体質的な問題もあり傷の部位が硬くなったり、ケロイドと言われるしこりになったりすることはあります。体に害はありませんのであくまで見た目の問題ですが、多少の個人差があることについてはご理解ください。傷の部分はどうしても他の皮膚より硬くなって治癒しますので覚えておいてください。
    ※他に何か気になることがあれば、受診して、担当医師や手術看護師に直接お問い合わせくださいますようお願い申し上げます。

精索静脈瘤手術を受ける
意義について

  1. 精子が少ない乏精子症や、精子の運動が不良な無力精子症の症例の約40%程度の方の原因が精索静脈瘤であると言われています。また、第二子不妊と言われる、二人目のお子様が授かりにくいカップルの場合の男性因子では、約80%程度の症例の原因が精索静脈瘤であると言われています。
  2. 精巣の内部の精子を形成する細胞だけではなく、男性ホルモンを産生する細胞の機能の低下にも、精索静脈瘤が関与していることが分かっています。
  3. 精子の内部の遺伝子DNAの損傷が、精索静脈瘤によって、有意に増加すると言われています。
  4. 精索静脈瘤手術による、精子の内部のDNA損傷の改善は術後2ヶ月目くらいからみられるようです。
  5. 体外受精や顕微授精を行う場合でも、男性因子として、精索静脈瘤を手術にて治療しておくことで、妊娠や出産までの確率が、精索静脈瘤手術をしなかった場合に比して、1.8倍程度になったとする論文もあります。
  6. また同様に精索静脈瘤を手術にて治療しておくことで、流産率が60%程度減少したとする報告もあります。

以上などいくつかのメリットがあるものと思われます。
体外受精や顕微鏡授精などの生殖補助医療を行う方々も、当院では連携しつつ、手術適応のある精索静脈瘤症例に対しては、並行して手術加療を行うことを推奨しております。

精索静脈瘤と
テストステロンの話

「精索静脈瘤がある症例は、テストステロンが低い傾向にある。」と言われています。( C. Tanrikut, M. Goldstein, J. S. Rosoff, R. K. Lee, C. J. Nelson, and J. P. Mulhall. (2011). Varicocele as a risk factor for androgen deficiency and effect of repair. BJU International)

また「低テストステロンの症例で、精索静脈瘤がある場合には、精索静脈瘤手術によって、テストステロンが上昇する可能性がある」、つまり、精子のみではなく、テストステロンの低下にも精索静脈瘤が関与しており、テストステロンの改善も期待できることが示唆されています。(Effects of varicocelectomy on serum testosterone Patrick Whelan and Laurence Levine Transl Androl Urol. 2016 Dec; 5(6): 866–876.)

今後は、正常のテストステロンの症例でも、将来のテストステロン低下の予防的意味で精索静脈瘤手術をすべきかどうか、または、妊孕性ではなく、テストステロン低下の治療として、精索静脈瘤手術をすべきかどうかについて臨床研究が進むことが期待できます。推測ですが、中年男性の男性更年期症例であっても、精索静脈瘤が有意な場合、手術加療によって、テストステロンの回復が見込まれるかもしれませんので、臨床研究の結果、このような治療が推奨されることになれば、男性更年期障害の症例にとって、治療の選択肢が増えますので、大変に喜ばしいことだと思います。

精索静脈瘤と
精子のDNAの断片化の話

「sperm DNA fragmentation」SDFは精子の内部のDNAが精索静脈瘤からもたらされる、精巣内部の各種酸化ストレスなどによって傷つき、断片化することを言います。精索静脈瘤の治療によって、この精子内部のDNAの断片化、つまり遺伝子情報の損傷が、軽減されることが示唆されています。(Int Urol Nephrol. 2018 Apr;50(4):583-603. doi: 10.1007/s11255-018-1839-4. Epub 2018 Mar 14.Effect of varicocele repair on sperm DNA fragmentation: a review.

Roque M1, Esteves SC2,3,4.) そして、精索静脈瘤手術によって、精子の内部のDNAの損傷が、減少することと、妊娠確率が上昇することが確認されています。 (J Urol. 2010 Jan;183(1):270-4. doi: 10.1016/j.juro.2009.08.161.

Decreased sperm DNA fragmentation after surgical varicocelectomy is associated with increased pregnancy rate.

Smit M1, Romijn JC, Wildhagen MF, Veldhoven JL, Weber RF, Dohle GR.)

したがって精索静脈瘤手術の効果は、見た目の精子の数や運動性でなく、その内部の大切な遺伝子を保護する意味もあるということです。将来的には、臨床現場で、簡単な検査で、精子の内部のDNAの評価ができるようになれば非常に素晴らしいことだと思いますし、今後の研究の進展を期待しているところです。

精索静脈瘤について
よくあるご質問

精索静脈瘤と言われましたが怖い病気でしょうか?

命には、ほとんど直接の影響がある疾患ではありませんので、全く怖い病気ではありません。健康な成人男性でも12~15%程度に精索静脈瘤があるとされています。非常にありふれた疾患の一つと言えます。それほど怖がる必要はありません。しかし、人によっては、精子が減少する、精子の質が悪くなる事など男性不妊症や、精巣萎縮や男性ホルモン(テストステロン)分泌低下などの原因、または疼痛や違和感の原因などには、なり得ます。したがって、そんなに怖い病気ではないけど、男性諸氏にとってはとても大切な疾患となるものです。そのことは覚えておいてください。

どうして精索静脈瘤になるのでしょうか?

精索静脈瘤は左に起こりやすく90%くらいの症例は左の発症です。精巣静脈は、精巣から左の腎静脈にほぼ90度で合流しているため、太い静脈圧から(特に左腎静脈は大動脈と腸間膜動脈の間で圧迫されやすい傾向もあるため)精巣静脈への逆流血液が生じたりしやすく、また細い精巣静脈の内部の逆流防止の静脈弁も壊れやすいため、静脈血流のうっ血や逆流から、静脈瘤が形成されるものと思われます。がんとか腫瘍のような病気ではありませんし動脈瘤とはまた違う疾患の概念になります。

精索静脈瘤があると痛みがありますか?

精索静脈瘤の症例でも痛みがある人と全く無い人がいます。痛みも、気張った時など強い痛みの場合もあれば、なんとなく鈍痛などの症状もあり多彩です。静脈瘤のグレードとも完全な関連があるとは言えず、グレードが低くても違和感が強い場合もあります。したがって、精索静脈瘤で痛みが生じる場合はあるけど、ものすごく強い痛みは稀である、という答えになります。

精索静脈瘤手術は健康保険の適応ですか?

当院では、健康保険の適応で、外来日帰り手術、顕微鏡下の内精索静脈低位結紮手術を行っており、手術内容も基本的には、動脈、リンパ管全温存の、静脈系のみ剥離処置を一本一本丁寧に行う方法をとっております。細かく修練の必要な手技ではりますが、一番手術成果が確実であると考えられるためこの方法を採択しています。保険では顕微鏡下精索静脈瘤手術の手術名称になります。しかし施設によっては自費診療のところもありますので、おのおの各自医療機関で問い合わせが必要でしょう。

精索静脈瘤と言われて手術を勧められていますが、どのようにしたらいいでしょうか?

基本的に直接命に関わる病気ではありませんので、手術するかどうかは本人の自由意思で良いと思います。手術のメリット、デメリットをしっかり検討してください。また、医療機関や医師によっても手術への積極性には幅があると思います。しかし、男性にとって、精巣機能、精子を作る機能、テストステロンを作る機能については大変重要な影響が精索静脈瘤にはあると考えます。したがって、当院では、不妊症の心配や、男性機能の心配や、または痛みや不快感の状況などあれば積極的に手術をお勧めしています。医師と十分相談して各自の意見で最終的には治療方向をお決めになってください。

精索静脈瘤を放置すればどのようになりますか?薬で治りますか?また自然に治りますか?

基本的に、精索静脈瘤の自然治癒はないものと思います。また薬での治療も難しいと思います。そして、放置にて精索静脈瘤は徐々に悪化することがあるかもしれません。さらには、治療しなければ、時に精子産生能力に悪影響が生じたり、精巣機能全体が低下して精巣の萎縮やテストステロン低下につながる懸念が生じてきます。

精索静脈瘤手術を貴院で受けようと思いますが、術後かなり大変でしょうか?

当院での手術では、全員、局所麻酔にて、日帰り精索静脈瘤の顕微鏡での手術となっております。手術時間は、体形や血管などの解剖要素にも左右されますが40~50分程度で概ね済みます。また術後は回復室のベッドで点滴しながら休憩して、10~15分程度休憩されたら、元気に歩いて帰られる症例がほとんどです。そして翌日の仕事もデスクワークであればほとんどの人が通常勤務されているようです。さすがにきつい肉体労働の場合では、術後1~2日程度は避けたほうがいいので、お休みされることが多いのが現実です。激痛や辛い痛みもほとんど無いので、当院で手術を検討なさっても術後の恐怖はほぼ持たないで大丈夫だと言えます。

精索静脈瘤手術を受ける場合の施設選びについて

当院では顕微鏡下に低位で内精索静脈を動脈やリンパ管から剥離操作を行い、きめ細かく、一本一本の内精索静脈の結紮や焼灼切離を行っていますが、煩雑に血管系が絡み癒着のある場合もあって、手術操作には一定以上の修練と経験が必要な処置になっています。しかしこの丁寧な操作と手技による手術が一番精索静脈瘤の再発や合併症が少なくなることは明らかになっています。同じ手術の名称であっても、このような丁寧な処置を行う技術力のある医師と施設を選択することがとても大切であると思います。
血管の処置の仕方でも施設によってその手技が異なります。
精索の動脈や精管だけ剥離して他を一塊に結紮処置するやり方を行う施設もあります。たしかに簡単な処置で手間は不要ですが、不必要な動脈結紮のリスク・静脈の処置が不完全になるリスク・リンパ管の温存不成功などのリスクが高まります。そのため、簡便な手術方法では、術後の精子改善が不良になる確率、再発率や合併症率が、高い傾向にあります。
当院採用の手術術式では、精索静脈瘤の静脈各々を一本ずつ丁寧に徹底的に処置していく手術方法なので、そのような前述のリスクは最小限になります。経験が必要で基本は修練が必要な手術術式で時間がかかる傾向はありますが、それでも当院平均手術時間は片側で40~45分程度で平均よりもかなり短時間で済みます。

また、施設における精索静脈瘤の手術件数と、執刀医の手術経験数も大変重要です。当院では手術症例は毎年増加傾向であり、現時点では年間300例ほどの局所麻酔下日帰り顕微鏡下精索静脈瘤手術を行っております。また当院執刀医の累積執刀症例数も3000例以上あります。また当院のように一年間300例近い精索静脈瘤手術症例数は全国でもトップクラスの手術件数です。そして合併症症例も特になく全例安全に手術ができています。当院の様に、精索静脈瘤手術の豊富な症例数の医療機関は数少ないですが、できるだけ良い医療施設を選択して手術することが重要です。
当院の症例数・医師経験数は、かなり豊富な手術執刀数と言えるものですが、中には症例数の少ない医療機関もあります。この施設の手術件数や、執刀医の執刀経験が手術成績にも関連が強いことが、わかっています。
自明のことですが、たくさん手術を行っている医師で、多く手術がある施設で手術したほうが、良い結果になるということです。したがって、年間執刀数が最低でも80~100例以上はある施設・医師によって手術を受けることが、精索静脈瘤の手術成績が良いと思われますので、参考になさってください。

また顕微鏡下精索静脈瘤手術は基本的には保険収載手術であります。
いわゆる健康保険の適応の手術です。しかし、営利目的のため高額の自由診療費用で手術を行う施設も散見されます。自由診療で高額請求をすることは自由ですが、患者としては「基本的に精索静脈瘤手術は健康保険適応可能な手術」である事実はしっかりと知っておくべきでしょう。
いたずらに無駄な医療費を費やす必要はありません。費用面での医療機関選択も現時点ではとても賢明で重要な考えであります。
片側精索静脈瘤の場合、当院であれば、健康保険適応で患者さんの負担金は、手術日で43,000円程度(令和5年時点)となりますが、一部医療機関では、片側手術で20~40万円もの請求をされる場合もあります。この差は大きいものです。
手術をどこで行うかについては、個人の自由であり施設選択も自由なのですが、この事実は、しっかり覚えておくことが必要です。
当院には、新幹線など利用し、遠路多方面から日帰りで顕微鏡精索静脈瘤手術を行う患者さんも多数おられ、手術後一泊京都に泊まって観光も兼ね来院されるケースも多いですが、その旅費を含めても、高額自費診療医療施設にて手術するよりも、かなり経済的負担が少ないです。
善意の泌尿器科医師たちが患者さんの経済的負担軽減を願い、健康保険適応に向け一生懸命努力してきた顕微鏡下精索静脈瘤手術保険収載です。この手術が必要な症例には、保険適応で手術を普及させ患者個人の経済的負担を軽減させることが、医療人としての我々の使命であると当院では強く確信しております。

あとは、医師との面談などをもとにして、ご自身でよく検討して、ご自身が納得する施設で治療を受けることが大切です。精索静脈瘤の手術を考えている方々は、是非とも、種々の情報を得て、しっかり勉強をして、後悔の無いように決断をなさってください。