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精索静脈瘤とは

精索静脈瘤とは、男性の精巣の血管などが束になった索状物である精索といわれる組織の内部の静脈の血流が鬱血(血液の流れが滞ること)逆流したりすることで静脈が拡張している状態のことを言います。下肢の静脈瘤は時折目にするかもしれませんが、その精巣バージョンといってもいいかもしれません。 精索静脈瘤は聞きなれない単語かもしれませんが、男性不妊(症)にとっては非常に大切な疾患であります。疾患といっても正常男子の10-15%くらいの症例に無自覚の精索静脈瘤があり比較的一般的な疾患・病態です。疾患と名前がついても、精索静脈瘤で自覚症状(陰部の痛み 不快感など)を感じる症例は少ないので、専門医(男性不妊を専門的に診療する泌尿器科医師)に診察してもらい精査を受けないと正確にはわからないでしょう。そして男性不妊症の半数以上が精索静脈瘤が原因での男性不妊症なので、妊娠を望み、妊活をしているのであれば、まず記憶しておくべき疾患でしょう。

なぜ男性不妊に大切か?

それは精巣へ異常な静脈血液が逆流を起こしたり、心臓に帰るべき静脈血がスムースに心臓に帰れなく(鬱血)なっているために、精巣の内部の細胞へダメージがおこるからであります。精索静脈瘤の病態とはこのように血流異常といってもかまいません。精巣の内部には 精子を作りだす細胞 男性ホルモンを作りだす細胞などが混在していますが、特に精子のもとの細胞はデリケートであり環境変化に弱いものであり精索静脈瘤から起こる血液循環の異常でもすぐに働きが低下します。前述のダメージとは温度上昇、酸素濃度低下、酸化的なストレス、老廃物の悪影響などがありDNAレベルでも損傷がおこる可能性があります。精子の内部のDNAが傷つけば妊娠率が顕著に低下することは、容易に想像できます。

精子の元の細胞の働きの低下は、精子数の減少(乏精子症)精子の運動率の低下(無力精子症)精子の奇形発生率上昇(奇形精子症)などにつながります。
このように精索静脈瘤がとても大切な病態であることが少しでも分かっていただけたかと思います。

精索静脈瘤の診断

まず見た目です。陰のうの視診で明らかに膨大が確認できることもあります。この場合精索静脈瘤がひどいことが多いです。
そしてベッド上で座位になってもらい下肢は伸展してリラックスしてもらいます。精索静脈瘤の触診で、血管の感触を確認します。そして同時に精管(精子が通るパイプ)や精巣、精巣上体なども異常がないか丁寧に診察します。
最後に血流確認のためのカラードップラー超音波検査です。非常に体表の浅い部分が見える周波数の高い繊細なエコープローブを用い数ミリの血管の血流もチェックします。リラックスの状態、少し腹圧をかけた状態、息止め、咳払いなどの状況下で血流を調べ精索静脈瘤の血管直径や血流速度を測定し最終的な診断とします。

この検査、そして精液検査、ホルモンの採血検査結果などを総合的に評価して、精索静脈瘤の手術適応を決定します。この時リアルタイムで検査所見は説明をしながら検査をいたします。

精索静脈瘤の手術療法

精索静脈瘤で手術適応があるもので手術を希望された症例には手術を行います。手術には下記のいくつかの術式があります。すべての手術を行って参りましたが現在は体の負担が少なく再発率も低く、日帰り手術も可能な1番の顕微鏡下内精索静脈低位結紮手術が主流で北村クリニックでもこの手術を行っています。
1. 顕微鏡下内精索静脈低位結紮手術(もっとも推奨される手術であると考えます)
2. 腹腔鏡下精索静脈瘤手術
3. 高位精索静脈瘤手術

精索静脈瘤の手術の概略

まずは簡単な大まかな精索静脈瘤の手術の流れについて説明いたします。
手術の準備から手術室のこと、その後のケアについてなどです。
  • 当日朝にシャワーなどを済ませていただき局所麻酔と静脈麻酔(時に皮下・筋肉注射)などで十分に鎮痛処置をします。安全の為点滴も確保をしておきます。
  • 陰嚢の上の方に1.5cm~2.0cmくらいの非常に小さい傷を縦に切開します。
    (吸収糸で丁寧に埋没縫合するので傷跡はかなり綺麗になってわかりにくくなることが多いです)
  • 精索(精嚢に向かう動脈・静脈・リンパ管などの集まった束で15ミリほどの直径)を露出します。
  • 顕微鏡で手術します。大切な動脈やリンパ管や神経は温存して傷つけずに、静脈瘤の異常な血管(内精索静脈)のみ処置(低位結紮)をして精巣に古い静脈血が逆流しないようにします。さらに精索の外部から流入する外精索血管についても悪い静脈は処置をしっかり行います。
  • 精巣の血流が問題ないこと、正確に精索静脈瘤の処置ができていること、手術部位の止血を念入りに確認して傷を閉じて手術は終了です。
手術時間
精索の血管の数、走行、皮下の脂肪量、麻酔薬の効き具合などで左右されます。通常は片側のみで40分程度の手術時間、両側の場合で70~80分程度の手術時間で済むことがほとんどです。当院での手術では、動脈やリンパ管の剥離を先行して行い、かつ陰部への神経温存も行い、手術時間短縮と疼痛軽減を目指しています。

※手術中に、傷痛みや陰部の不快感など時に起こりますが、その時は休憩しながら、 患者さんのペースで手術を行いますのでご安心ください。大きな痛みが起こるとか辛くて手術ができないなどのような症例はほとんどございません。半数以上の症例は手術後半から居眠りしているくらいの状態です。

精索静脈瘤手術の合併症について

  • 内出血(創部から陰嚢にかけての皮下出血が原因):0.5%以下です。皮膚が打身 のように少し紫斑がでますがほとんど自然軽快します。
  • 傷の感染、化膿:非常にまれです。
  • 精巣萎縮(精巣が小さくなる):極めてまれです。
  • 陰嚢のむくみ:これはしばしばみられます。少しむくんだ感じでほぼ全例2週間程度で自然治癒します。体への問題はありません。手術の自然な影響のためのむくみです。
  • 傷の痛み:これは軽度ですが数日から数週間の個人差があります。

精索静脈瘤の手術後の経過観察について

精索静脈瘤の手術をしてから、約3~6か月すると、当院では約70%程度の症例で術後の精液検査所見の改善が得られていますが、一般的な報告では51%~78%の改善率のレポートがあります。なぜなら精子が誕生する際に精子の大元の精母細胞から成熟精子に成長するのに70日余りが必要だからです。精索静脈瘤の手術を行うことで精巣内部の環境が改善して、精子の元の細胞が活動が改善することが手術の目的であります。精索静脈瘤の手術後のこの時期に精液検査の再検査が必要です。さらに3-6か月くらいではあまり精液検査所見が変わらない症例もありますが焦ることはありません。術後経過観察は最低でも1年くらいは経過観察が必要です。その期間に厳重に観察していきます。内服薬などの補助的な治療についてもアドバイスしながらケアを継続します。 しかし、残念ながら検査結果があまり変わらない一部の症例があることも事実なのです。その症例には薬物的な治療も追加して経過観察したり体外受精・顕微授精へのステップアップを早めに進めたりすることとなります。

医療法人男健会 北村クリニックで精索静脈瘤手術を希望する場合

まずは一度は受診に来ていただき相談することが望ましいです。手術自体は基本的には連日(特別な休診日以外)の14-17時に手術を行っており、空き枠のある限り申込は可能です。当然、土曜日・日曜日も手術を行っておりますが希望者が他より多いため予約が埋まりやすい傾向があります。術前検査と術前のオリエンテーションは全員にお受けいただきますが所用時間は30分程度です。遠方の方の場合は、電話打ち合わせの上、手術当日に一気に全部行う症例もありますのでまずご相談ください。他院で検査し手術も勧められた場合など転院希望の場合にもご遠慮なく申し出てください。

精索静脈瘤手術を受けられた患者さんへ:術後のケアについて

北村クリニックにて顕微鏡下内精索静脈低位結紮手術(精索静脈瘤手術)を受けられた後の自宅でのケアや観察の要点について簡単に補足いたします。基本的な事項な手術前後の手術オリエンテーションにて詳細にお聞きになっているかと思いますが、お忘れになった場合など、このホームページ内でも確認できると思います。

まず手術後の、観察として、強い痛みが無いか?傷の周囲の腫れや、内出血がないかどうか?精巣(睾丸)や陰嚢が腫れてないかどうか?などです。あとは体温や食欲など全身状態に異常がないかどうかが注意点です。運動については手術翌日までは基本的には安静、その後は無理なくゆっくり再開してかまいません。
シャワーは手術して48時間程度経過すれば可能です。しかし湯船に浸かることや、スイミングは抜糸まで禁止といたします。手術した側の陰嚢は、術後数週間程度は多少のむくみや、少しの違和感程度はございます。性行為については痛みや、傷の汚染がなければ制限はございません。射精することも問題ありません。飲酒については術後最低でも抗菌剤内服期間は禁止してください。その後は傷に問題などなければ少量はかまいませんが、医師の許可をとってください。

傷の消毒については、創部を覆う絆創膏を丁寧にはがしたのちに、傷の中心部から消毒開始して徐々に周囲の消毒を行い徐々に範囲を広げていくことがポイントです。消毒後は術後ケアのセットとしてお渡ししている新品の絆創膏をしっかり貼り付けてください。シャワー後の絆創膏交換が良いでしょう。しかし汚れたりはがれたりすれば適宜交換消毒処置はおこなってください。
抜糸後の傷については、できるだけ綺麗な創部になるように工夫はしておりますが、体質的な問題もあり傷の部位が硬くなったり、ケロイドと言われるしこりになったりすることはあります。体に害はありませんのであくまで見た目の問題ですが、多少の個人差があることについてはご理解ください。

他に何か気になることがあれば、随時 北村クリニックまでご連絡し、お問い合わせくださいますようお願い申し上げます。

精索静脈瘤手術を受ける意義について

  1. 精子が少ない乏精子症や、精子の運動が不良な無力精子症の症例の約40%程度の方で原因が精索静脈瘤であると言われています。また、第二子不妊と言われる、二人目のお子様が授かりにくいカップルの場合の男性因子では、約80%程度の症例の原因が精索静脈瘤であると言われています。
  2. 精巣の内部の精子を形成する細胞だけではなく、男性ホルモンを産生する細胞の機能の低下にも、精索静脈瘤が関与していることが分かっています。
  3. 精子の内部の遺伝子DNAの損傷が、精索静脈瘤によって、有意に増加すると言われています。
  4. 精索静脈瘤手術による、精子の内部のDNA損傷の改善は術後2か月目くらいからみられるようです。
  5. 体外受精や顕微授精を行う場合でも、男性因子として、精索静脈瘤を手術にて治療しておくことで、妊娠や出産までの確率が、精索静脈瘤手術をしなかった場合に比して、1.8倍程度になったとする論文もあります。
  6. また同様に精索静脈瘤を手術にて治療しておくことで、流産率が60%程度減少したとする報告もあります。

以上などいくつかのメリットがあるものと思われます。
体外受精や顕微鏡授精などの生殖補助医療を行う方々も、当院では連携しつつ、手術適応のある精索静脈瘤症例に対しては、並行して手術加療を行うことを推奨しております。